【序章】常識が経営を壊すとき

経営の世界には、たくさんの「正しい言葉」があります。

「経営者は孤独である」
「失敗を恐れるな」
「人は財産である」
「従業員満足が顧客満足を生む」
「優秀な人材を採用すれば会社は伸びる」

どれも経営書やセミナーで何度も聞いてきた言葉です。そして多くの人が、それを疑うことなく「正しいもの」として受け入れています。

僕自身も、経営を始めたばかりの頃はそうでした。本を読み、セミナーに参加し、成功者の言葉をノートに書き写しながら、「これが経営の正解なんだ」と信じていたのです。けれど、実際に会社を経営してみると、どうも現実は違いました。

本に書いてある通りにやっても、うまくいかないのです。うまくいかないどころか、状況が悪くなることすらあります。

たとえば「従業員満足を高めれば会社は伸びる」と言われたから待遇を良くしたのに、なぜか業績が落ちる。「優秀な人材を採用すれば会社は変わる」と聞いて採用したのに組織が崩れる。「失敗を恐れるな」と言われて挑戦したら、資金繰りが危なくなる。

・・・・

「この常識って本当に正しいのか?」

もちろん、これらの言葉がすべて間違っているとは思いません。ただ、経営の現場では「言葉だけが一人歩きしている」ケースがあまりにも多いと感じてきました。

経営は、きれいごとでは回りません。社員の人生を預かり、会社の未来を背負い、毎月の資金繰りを考えながら意思決定をする。その中で感じるのは、教科書通りにはいかないという現実です。

「人は財産だから厳しく言えない」
「従業員満足を優先しなければいけない」
「社員はビジョンについてくるはずだ」

こうした思い込みが、会社の判断を狂わせることもあるのです。

僕はこれまで、数多くの企業と関わってきました。そして自分自身も、会社を経営してきました。その中で感じたのは、成功している経営者ほど、常識をそのまま信じていないということです。

この本では、経営の世界で長く語られてきた「常識」とされる言葉に、あえて疑問を投げかけます。
・経営者は本当に孤独なのか。
・失敗は本当に恐れてはいけないのか。
・優秀な人材を採用すれば会社は伸びるのか。
・社員は会社のビジョンについてくるのか。

答えを断言するつもりはありません。経営に絶対の正解など存在しないからです。ただ、一人の経営者として、現場で感じてきた違和感と実体験をもとに、僕なりの考えを書いてみようと思います。

この本は、「正しい経営」を教える本ではありません。

「本当にそれ、正しいんですか?」

そう問いかける本です。

もしあなたが経営をしていて、どこかで違和感を感じているなら。
もし「成功法則」や「経営の常識」に疲れてしまっているなら。

この本は、きっとそのモヤモヤを言葉にしてくれると思います。

経営とは、常識を疑い続ける仕事です。そして、その問いを持ち続けた人だけが、自分なりの答えにたどり着くのだと思います。

この本が、その問いのきっかけになれば嬉しいです。