くじ引き人生 - プロローグ
書籍用の最新版のプロローグです。
こんな感じで書籍化を進めて行きます。
くじ引き人生 - プロローグ:KUJI Life Picker 残り1年の人生
東京の片隅。
古びた木造アパートの六畳一間で、僕は時間を潰すように生きていた。
九条陽介、三十歳。
仕事も人間関係も夢もなく、ただ日々を消費しているだけの男だ。
布団は湿気でカビ臭く、冷蔵庫はほとんど空っぽ。
ベッド代わりの敷布団に寝転がり、スマホでSNSやまとめサイトを眺めるのが一日の大半。
心が動くことはほとんどなかった。
仕事はとっくに辞めた。
最初に就職した会社では三年もたずに挫折し、その後は派遣やバイトを転々。
気がつけば、どこにいても居場所を作れない自分が嫌で、働くこと自体を投げ出していた。
「どうせ俺なんか」
そう思いながらも、生活費は容赦なく減っていく。
パチンコで負けては、コンビニのレジ横に並ぶ割引弁当で腹を満たす。
未来も希望もなく、ただ今日をやり過ごすためだけに息をしている。
運がない。
そんな言葉では片づけられないほど、不運が続いていた。
財布を落とす。
携帯を壊す。
買ったばかりの家電は初期不良。
人間関係は誤解とすれ違いで壊れ、最後に残った恋人にも見放された。
「俺の人生、どこで間違ったんだろうな」
呟いても答えは返ってこない。
その夜も同じだった。
いつものように、近所の自販機で缶コーヒーを買おうと小銭を取り出したとき、足元に白いカードが落ちているのに気づいた。
街灯に照らされたカードは、名刺ほどの大きさ。
表面には何のロゴも文字もなく、真っ白だった。
裏返すと、中央に黒々としたQRコードだけが印字されている。

「……何だこれ」
思わず拾い上げ、しげしげと眺める。
誰かの落とし物だろうか?
でも、名前も連絡先も何もない。
普通なら捨てるか、そこらに放っておくところだ。
だが、そのときの僕は妙に退屈していて、気まぐれにスマホを取り出した。
バーコードリーダーを立ち上げ、QRを読み取ってみる。
ピッという音とともに、見たことのないアプリのページが表示された。
――KUJI:Life Picker。
「……くじライフピッカー?」
胡散臭いタイトルだった。
説明文には、こうあった。
あなたの明日を選べます。
くだらないジョークアプリか、あるいは詐欺まがいの広告誘導だろう。
普段なら無視するはずなのに、指は勝手に「インストール」を押していた。
きっと、それくらい退屈していたんだと思う。
アプリが起動すると、黒い画面に白い文字が浮かび上がる。
――ようこそ、九条陽介さん。
あなたは「人生くじ」の選択者に登録されました。
「は?」
いきなり名前を呼ばれ、思わず声が漏れた。
続けて、規則めいた説明が淡々と流れていく。
毎日5枚のくじから1枚を選択してください。
表示されるのはLUCK(幸運)またはBAD(不運)の数値のみです。
内容の詳細は非公開。
LUCK 100=天にも昇るほどの幸運
BAD 100=死にかけるほどの地獄
あなたの残りくじ枚数:365枚
※1日=1枚。すべて引き終えたとき、人生は終了します。
「……何だよ、これ」
僕はスマホを握りしめたまま、固まった。
残り365枚。
つまり、あと1年で死ぬ?
そんなバカな話があるわけがない。
どうせオカルト好きが作ったイタズラアプリだ。
人を不安にさせて広告でも踏ませるのだろう。
笑って無視すればいい――そう思うのに、胸の奥がざわついた。
なぜ僕の名前を知っている?
なぜ今、このタイミングで僕の前に現れた?
答えを探すように画面をスクロールすると、明日のくじ候補が表示された。
A:LUCK 12
B:BAD 31
C:BAD 62
D:LUCK 2
E:BAD 100
「……は?」
目を疑った。
「死にかけるほどの地獄ね」
Eの説明文を見て、思わず口元が歪む。
「上等だよ」
僕は迷いもなく、E:BAD 100をタップした。
信じていなかった。
こんなもので本当に人生が変わるなんて。
もし本当に死にかけるほどの地獄が起こるなら見せてみろ。
どうせ死ぬなら、笑えるくらい派手な不運をくれ。
そんな投げやりな気分で、僕は選択を確定した。
画面には、冷たく淡々と表示された。
明日のくじ:BAD 100。
「ふざけてるな……」
独り言を漏らしながら、僕はスマホを投げるように布団の上に置いた。
どうせ夢も希望もない人生だ。
一日くらい地獄を味わったところで、大した違いはない。
そう思って、眠りについた。
まさかそれが、本当に死にかける地獄を呼び寄せることになるとは、
そのときの僕はまだ知らなかった。


