くじ引き人生 - 第08話
さやかからの告白
LINEに表示された短い言葉。
「話したいことがある」
胸騒ぎを押さえられず、すぐに既読をつけて返信を打とうとした。
そのとき、さらに通知が鳴る。
「今、病院にいるの」
その一文に、心臓が凍りついた。
病院? どうして?
考えるより先に体が動いていた。僕はタクシーを拾い、震える手で病院の住所を検索し、
無我夢中でさやかのもとへ向かった。
(数十分後)
病室の扉を開けると、ベッドの上でさやかは静かに微笑んでいた。
けれど、その瞳には決意の影が宿っていた。
「陽介・・・もう隠せないの」
そう言って差し出されたスマホ。
画面には、5枚すべてがBADと表示された「人生くじ」。
「LUCKは、もう一枚も残ってないの」
僕は息を呑んだ。冗談であってほしかった。
けれど現実は、残酷なまでに冷たく突きつけてくる。
「残りのくじは全部BAD。だから・・・私の人生は、もう長くない」
その声は震えていた。
「半年前に余命を告げられ、もう残りは10枚くらいかな」
つまり残り10日でさやかは死んでしまうという事だ
その言葉に胸が大きく揺さぶられる。
そして僕は同時に「ハッ」と気づいた。
「さやかも、このアプリを使っていたの?」
「そう。私も、ずっと前から」
その答えに頭が真っ白になった。
僕と同じ運命を背負っていた。
これまでの再会や奇跡は、偶然なんかじゃなかったのかもしれない。
彼女に未来はもう数日しか残されていない。
僕は言葉を失いその手を強く握った。
「僕の人生も残り339日」
病室の空気が重く沈む。
さやかは弱々しく笑った。
「おかしいよね、こんなの」
けれど、その笑みの奥には恐怖と諦めがにじんでいた。
僕の頭に浮かんだ答えはひとつ。
残りの人生、さやかがBADで苦しむことのないように、
僕のLUCKを全部、彼女のために使う。
「大丈夫だ。僕がLUCKを選べば、君はBADを食らっても最後まで意識を保っていられるだろ」
必死に言葉を絞り出すと、さやかは強く首を振った。
「わかってるの。陽介がLUCKを引いてくれたから、私はここまで来られた。
でも……これ以上はダメ。陽介の貴重なLUCKを、私のために使わないで。
それは、陽介の命そのものなんだから」
彼女の声は涙で震えていた。
けれど僕は叫んでいた。
「どうせ死ぬなら、君のために使いたいんだ!」
その言葉に、さやかの心が大きく揺れる。
怒りと悲しみと、どうしようもない愛情が入り混じった瞳で、彼女は叫んだ。
「お願いだからそんなこと言わないで!
私の残りはもう数日
でも、陽介にはまだ1年近くあるの!
その時間を、大切に生きてよ!」
彼女の叫びが胸に突き刺さる。
お互いに相手を思っているのに、願いは真逆。
その心はすれ違い、重く沈んでいく。
「僕はもう、生きる意味なんてない。
君と一緒に過ごせるなら、それでいいんだ」
冷たく放った言葉は、自分自身をも傷つけた。
ベッドの上でさやかは涙を流しながら、必死に僕を見つめていた。
・・・
その夜。
僕は再びアプリを開いた。
5枚のくじはLUCKが3枚、BADが2枚。
迷わず一番数値の高いEのLUCK 72を選んだ。
A:BAD 21
B:BAD 56
C:LUCK 14
D:LUCK 38
E:LUCK 72
「LUCK 72」
その瞬間はまだ知らなかった。
この選択が、思いもよらない「出会い」を呼び込むことになることを。
残り:338枚
陽介の命:残りあと338日

