くじ引き人生 - 第09話
最低な奴
病院を出た夜。
冷たい風が頬を打っても、胸の奥に張り付いた重さは消えなかった。
さやかの告白
残りはすべてBAD
命は数日
何も考える事が出来ずただ茫然と歩いていると
「お前、ずいぶん面白ぇ顔してんな」
突然、声をかけられた。
振り返ると、街灯の下に一人の青年が立っていた。
黒いパーカー、乱れた髪。鋭い目と薄ら笑い。
「誰だ?」
警戒心を込めて問い返す。
青年は鼻で笑った。
「病院でベッドに寝てた女……余命わずかのくせに、必死で生き延びようとしてんだろ?
で、お前はせっせとLUCK選んで、哀れな延命ごっこか」
心臓が跳ねた。
アプリのことを知っている――?
「……なにを知ってる」
「知ってるも何も、顔に全部書いてあるぜ」
彼は唇を歪めて笑う。
「『僕はLUCKを消費して女を繋ぎとめてます』ってな。
でも無駄だ。最後はBADに潰されんだ」
「やめろ!」
怒りで声が震える。
それでも青年はさらに刺すように言葉を重ねる。
「見てて笑えるんだよな。
哀れな女と、すがりつく男。
どうせ残りのくじに縛られて、最後は同じだろ?」
「黙れぇぇッ!」
叫んだが、彼は挑発するように笑い声を残して闇に消えていった。
──最低だ。
二度と関わるものか。
翌日
アプリの画面に、昨日選んだ「LUCK72」が光っていた。
数字だけ見れば、奇跡級の幸運が訪れるはずの日。
だが、病室の扉を開けた瞬間、そこにいたのはあの男だった。
「おい、残り10枚もない女。まだ生きてんのか?
見苦しいな。必死に延命して、何になる?」
「……っ」
さやかの唇が震え、涙が滲む。
「やめろ!」
僕が叫んでも、男は追い討ちをかける。
「お前ら二人の未来なんざ決まってんだよ。
哀れな延命劇にしか見えねぇ」
「……最低」
さやかは声を振り絞った。
冬馬は愉快そうに笑い、挑発を残して去っていった。
LUCK72。
数字だけ見れば、奇跡級の幸運が訪れるはずの日。
けれど僕たちにとって、それは最悪の一日だった。
病院を出たあとも、胸の中で怒りが渦巻いていた。
本当なら今日は、さやかのことを想って過ごすはずの日だった。
けれど一日中、頭の中を支配していたのはあの男の顔と声。
「……クソッ!」
気づけば夜になっていた。
LUCK72の一日を、僕はただ怒りのままに浪費してしまった。
夜
スマホを開くと、5枚のくじが浮かんでいた。
そこにはBADも混ざっていた。
けれど、僕の迷いはなかった。
「何か糸口が見つかるまでは、僕にできることは一つしかない」
指先をゆっくりとLUCKの札に滑らせる。
「LUCKを選び続けて、さやかを支える。
でも、それだけじゃない。
くじなんかに頼るだけで終わらせてたまるか。
きっと運命は変えられる。最後まで、絶対に諦めない」
画面に光が走り、LUCKの札が選ばれた。
その光を見つめながら、胸の奥で強く誓った。
残り:337枚
陽介の命:残りあと337日


